読む映画リバイバル『トゥモロー・ワールド』

驚異の長回し&絶妙な音楽使いが抜群。邦題のイマイチさが嘆かれる傑作だ

(2007年3月20日号より)

 元ジャーナリストで今は隠遁家、ヒッピー崩れの長老(マイケル・ケイン)が愛聴していたのはストーンズのカバー、イタリアの鬼才フランコ・バッティアートによる「ルビー・チューズデイ」である。

 一体、だしぬけに何だ!? と思われるかもしれないが、すでに本作を観た方ならこれだけで脳内プロジェクターが動きだすはず。ヒットこそしなかったものの06年の数ある公開作品中、最も口コミでその素晴らしさが賛えられ、と同時に邦題のイマイチさを嘆かれた不幸な傑作。

 舞台は2027年。子供が生まれなくなったディストピア世界で、人類の未来を左右するプロジェクトに巻き込まれた男(クライヴ・オーウェン)の「逃走→闘争」劇が描かれてゆく。ドキュメンタリータッチの驚異的な長回しが多く、例えば車の中、主人公たちは無数の敵に囲まれ、バイクが接近し、それをカメラは神ワザ的な動きで捉え……う〜ん、もどかしい。早く実物を観てもらいたい。全くのCGなし。機材を開発して車上にオぺレーション・ステーションを設けての完全な手作り(メイキング収録)。終盤には戦場での8分以上の超移動撮影もあって、これがまた言葉を失うほどのワンダーさ!

 ディープ・パープルにキング・クリムゾン……(ベタだがアジな)ブリティッシュ・ロック三昧の音楽もいい。締めはジョン・レノン「ブリング・オン・ザ・ルーシー」。「人々を解放しろ!」「殺戮をやめろ!」と歌うメッセージが映画の世界観とリンクし、拳にグっと力が入る。青臭いって? 青臭くて何が悪い!

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4度の英国推理作家協会賞に輝く女流作家P.D.ジェイムズの「人類の子供たち」を、総製作費120億円かけて映画化。西暦2027年、人類に子供が誕生しなくなった世界。政府軍と反政府勢力の激しい戦闘下、武装集団に拉致され、逃亡しながら役人セオは自らの運命を引き受けていく。

[週刊SPA!掲載]
●監督:アルフォンソ・キュアロン●出演:クライヴ・オーウェン、他●2006年●イギリス