読む映画リバイバル『ディディエ』

フランス人の好きなサッカー、犬、シャバを組み合わせた映画

(1998年5月上旬号より)

 タイトルの“ディディエ”とは、ペットのラブラドール犬に付けられた名前である。

 だがそれは、途中から人間の呼び名になる。なぜか? その犬が突如、人間の姿に変わってしまうからだ。不条理? そう、まさしくカフカの『変身』のごとく。そんないきなりの展開に、観客はビックリ&ニヤニヤ。一方(友人の)その犬を預かっていた主人公(ジャン=ピエール・パクリ)はビックリ&オロオロ。謎が謎を呼ぶまま、ストーリーは進んでゆく――。

 まもなく(6/10開幕!)4年に1度のビッグ・イベント、サッカーのワールドカップが開催されるフランスから、何とも荒唐無稽なコメディが登場した。プロサッカーチームのマネージャーである主人公は、主力選手のケガで大ピンチのチームを救うため、人間に生まれ変わった犬をサッカー選手に仕立てあげ、フィールドで活躍させようとするのだ!

 脚本・主演、そしてこれで監督デビューを果たしたのはアラン・シャバ。全編、犬人間ディディエを怪演してみせている彼は、フランスでは知らぬ者などいない有名人である。シャンタル・ロビー、ドミニク・ファルジアと結成した人気コメディトリオ“レ・ニュル”のメンバーのひとりとしてまずTVでブレイクし、その3人が脚本を書いて競演した「カンヌ映画祭殺人事件」(94)も本国で大ヒット。サイトギャグにこだわるその姿勢は今回の作品にも踏襲されている。

 それにしても〈3〉という数はシャバにとって基数なのかもしれない。「カンヌ映画祭殺人事件」では捜査をいたずらに撹乱させるボケボケのボディガードを演じ、コンビ2人とのカラミでトリオを形成していたが、「彼女の彼は、彼女」(95)では妻がレズの女性に恋をしてしまい、家庭に“夫”が2人できて、シャバはやはり三角関係に巻き込まれていた。この「ディディエ」では主人公とその恋人(イザベル・ジェリナス)との間に計らずも割って入ってしまい、またもトライアングルの構図の中でジタバタドタバタともがいている。考えてみればサッカーにおいても“トライアングル”というのは基本にして重要な概念。パスをつなぐために、つねに選手たちは三角形の軌跡(フォーメーション)を描こうとするのである。

 が、ディディエのやるサッカーはそんな高等なものではない。なぜって、所詮犬(人間)がボールと戯れているだけの話なのだから。それでも対戦相手は実に豪華である。強豪パリ・サン=ジェルマン。欧州でも人気実力ともに抜きん出たチームだ。さすがに映画に登場するのは32人の若手選手たちだが、舞台となるパルク・デ・プランスはパリ・サン=ジェルマンのホーム・スタジアムであり、もちろん今度のワールドカップでも使用される。

 パリはサッカーの街であるが、また犬の街でもある。よくしつけられたペット犬が多く、犬専用の公衆便所なんてえモノも備えられているほど。タクシーでも助手席に愛犬を乗せて営業したりしているそうだ(護身用の意味合いも)。従って「ディディエ」はサッカー犬、そしてシャバと、フランス人の好きなもの3つを組み合わせた映画だといえよう。

 ただし、シャバ自身はサッカーファンではないと明言している。ファンタスティックな感動という点からいえば、フランス代表ジヌディン・ジダン選手の華麗なプレーのほうが本作より上かも。ぜひワールドカップでの彼のプレーと見比べることをオススメする。

[キネマ旬報掲載]
●監督・脚本・出演:アラン・シャバ●出演:ジャン=ピエール・パクリ、他●1997年●フランス