読む映画リバイバル『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』

(2000年3月下旬号)

 このところ進むべき道を見失い、なにか足踏みしているような映画ばかり撮っていたヴィム・ヴェンダース。だが“停滞”も旅の一要素である。「日」が昇りさえすればいつかは新たな地平へと「立」つことができる。

 というわけで「音」の人、ヴェンダースはゆっくりとだがその歩をまた進め始めた。キッカケとなったのは1枚のCDだ。ライ・クーダがプロデュースし、97年にグラミー賞を得た『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』。アメリカの(もはや説明不要の)いぶし銀のギタリストと、キューバの(なかば忘れかけられていた)ベテラン・ミュージシャンたちとの幸福な出会いを記録したこの「音」のアルバムは、ヴェンダースに身軽なビデオ&手持ちカメラを持たせ、彼を情熱の「日」が昇る土地キューバへと「立」たせたのだった。

 根本敬的にいうと「イイ顔してる」、みうらじゅん的には「イイ味出してる」、そしてヴェンダース的にいうならば「イイ音、奏でまくっている」ジジイ、いや素晴らしき老音楽家たち。彼らへのインタビューとスタジオ収録風景、アムステルダム、NYでの怒濤のライブは我々を、すっかり「音」の虜にする。と同時にこれは、連想の旅のBGVとしてもじつに最適な1本だろう。

 熱狂した聴衆から手渡されたキューバ国旗が、カーネギーホールに鮮やかに広がるカッコよさは、バカ法案を通し、強制しているようなこの国とは無縁だろうナとか、美空ひばりの『お祭りマンボ』はたしか、ジャニーズの忍者も唄っていたよナとか、ライ・クーダと息子が乗っているサイドカーは『さすらい』(76)にも登場した魅惑の乗り物だったナとか、連想はもうとりとめもなく続くのだが……とまあ今回は、ヴェンダースの“旅”を久々に満喫した。

[キネマ旬報掲載]
●監督:ヴィム・ヴェンダース●出演:イブライム・フェレール、ライ・クーダ、他●1999年●ドイツ、アメリカ、フランス、キューバ