読む映画リバイバル〈「旅の夜風」「りんごの唄」そしてグループサウンズ〜松竹歌謡映画の系譜〉

(1995年10月下旬号より)

 主題歌『旅の夜風』が大ヒットした「愛染かつら」(38)、歌う大スター・李香蘭主演の「蘇州の夜」(40)、『りんごの唄』とともに戦後の解放感を綴った「そよかぜ」(45)、美空ひばりが天才少女歌手ぶりを存分に発揮した「悲しき口笛」(49)、「東京キッド」(50)などなど――松竹のお家芸のひとつに、古くから〈歌謡映画〉という王道ジャンルが存在している。

 アイドル的スターと最新風俗、ヒット曲とを巧みに織り込んで、1本の映画に仕立てあげる手練手管。山田洋次監督の「下町の太陽」(63)も、もとはといえば主演・倍賞千恵子の同名ヒット曲に便乗した企画だった。

 そんな魔法のジャンルである〈歌謡映画〉は、“リズム歌謡”の王者・橋幸夫の「あの娘と僕 スイム・スイム・スイム」(66)、「恋と涙と太陽」(66)、そして「恋のメキシカンロック 恋と夢の冒険」(67)を起爆剤として、68年、一挙に〈GS映画〉となって爆発した。

 といっても映画のスタイルは様々で、「ケメ子の唄」ではザ・ダーツと競作したザ・ジャイアンツのヒット曲をアイドル・小山ルミがゴーゴーを踊りまくり。“中原弓彦”名義で小林信彦が脚本参加した前田陽一監督の「進め!ジャガーズ・敵前上陸」ではビートルズの「HELP!」を下敷きに、なんとゴダールの「気狂いピエロ」のパロディまで盛り込んで、ナンセンスの極北をめざした(番外編として、大島渚監督がザ・フォーク・クルセイダーズと組んで、「帰って来たヨッパライ」で先鋭な国家論を展開したのもこの年だ!)。

 さて松竹の〈GS映画〉といえば、斎藤耕一監督とヴィレッジ・シンガーズとのコンビ作である。ザ・スパイダースもゲスト出演、『あの時君は若かった』のシーンがカッコいい「思い出の指輪」に始まり、続いて「虹の中のレモン」、GSムード歌謡の猛者パープル・シャドウズをフィーチャーした「小さなスナック」では当時の若者たちのアンニュイ気分を先取りし、翌69年、再びヴィレッジ・シンガーズの同名バラードに乗せた「落葉とくちづけ」は、さながらGSメルヘン版「去年マリエンバートで」とでもいうべき傑作となった。そして、全作ヒロインを飾った尾崎奈々! その男性本能をくすぐるどこか妖精のような魅力は、松竹映画史の片隅でひっそりと、しかし永遠に輝くことだろう。

 橋幸夫、舟木一夫、西郷輝彦の元祖御三家映画「東京←→パリ青春の条件」(70)以後、アイドル映画に移行していった〈歌謡映画〉。思えば日活ロマンポルノがセックスシーンと引換えに、テーマの自由性を手に入れたように、松竹の〈歌謡映画〉もまた、お決まりの演奏シーンの合間に作家的野心をもぐりこませることのできた、可能性のジャンルであったのだった。

[キネマ旬報掲載]