読む映画リバイバル『スラムドッグ$ミリオネア』

スラム出身の青年がクイズ番組で一攫千金。連続正解は果たして“ご都合主義”なのか?

(2008年2月26日号より)

 日本では1000万円が上限だったが、インドでは2000万ルピー、すなわち約4000万円だそう。何の話かというと「クイズ$ミリオネア」、世界各国それぞれの名称で放映されているあのテレビ番組の賞金のこと。この映画『スラムドッグ$ミリオネア』では、18歳の出場者ジャマールがあれよあれよと最終問題まで辿り着き、2000万ルピー獲得へと王手をかける。だが彼は、インドの都市ムンバイ(旧ボンベイ)のスラム出身。そこでみのもんた、いや司会者は、無学なはずの青年の躍進に疑惑の目を向け、強制的に警察送りにする!

 今年のアカデミー賞で主要8部門に輝いたのをはじめ、各国の映画賞を総なめにした話題作だ。が、その一方で「“ご都合主義”極まりない作品」と論評されることも多い。

 いやはや、確かにそうなのである。

 幼い頃、兄とともに孤児になったジャマールだが、先のクイズ番組においては、彼の衝撃的な過去に関連する事例ばかりがなぜか4択の答えに選ばれ、出題されていくのだから。

 が、映画の作り手たちは「ワザと」これをやっていると思う。主人公の波瀾万丈な人生遍歴を一気に見せるため、クイズ形式を用いて、観る側にわかりやすく提示しているのだ。

 つまり、一問ごとに回想シーンが挟まれ、ジャバールの苛酷な体験が綴られてゆく構成。それは彼が日常のなかで「ファイナルアンサー」を突き付けられ、究極の選択を続けてきたことを意味する。監督のダニー・ボイルはかつて、『トレインスポッティング』でスコットランドの街の薬物中毒の若者たちを活写したが、あの当時の鋭さを取り戻し、本作ではインドのスラム街の裏表、ジャマールの格闘の軌跡を生々しく描いてみせている。

 主人公は、いつしかインド神話の登場人物のように見えてくるのだが、それもボイル監督の演出意図。インド映画、ボリウッド仕込みの“踊るエンドクレジット”が用意され、絵空事なのに活力みなぎり、自己肯定、日々の「ファイナルアンサー」への勇気をもらえるだろう。もちろん実際の人生は「4択などではない」とわかってはいても。

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ヴィカス・スワラップの小説「ぼくと1ルビーの神様」をもとに、無名のインド人キャストを起用し、英国人監督ダニー・ボイルが映画化。感動のドラマだが、激烈なラブストーリーでもある。劇中の、名作『三銃士』に関する出題は、その世界観「一人はみんなのために、みんなは一人のために」と関係あり。『フル・モンティ』の脚本家サイモン・ビューフォイ。

[週刊SPA!掲載]
●監督:ダニー・ボイル●出演:デヴ・パテル、マドゥル・ミッタル、他●2008年●イギリス