読む映画リバイバル『百恵の唇 愛獣』

再検!日活ロマンポルノ

山口百恵は菩薩であると、平岡正明は言った

(2002年3月号より)

 山口百恵のことは始め、あまり好きではなかった。むしろ、嫌いなほうだった。
 ……などと、薮から棒に書き出しているのだが、これは俺のガキの頃の話だ。

 1973年、14才でデビュー。“青い果実”を売り物にした(させられた)アイドル時代。俺は彼女を冷ややかに眺めていた。76年を境にして、“横須賀ストーリー”を背負ったブルージィで“曼珠沙華”のような魅力を放つ歌い手へと変貌。80年の引退までスーパースター“百恵伝説”を築きあげていくわけだが、そのさなかにも、とりたてて興味を抱けなかった。

 どうしてだろう?

 それはひとえに、俺が文字通りガキだったからである。怖かったのだ。自分より4才違うだけなのに、どこか彼女からは修羅を秘めた、女の性(さが)が生々しく匂っていた。“過去”という名の修羅が。いま考えるとそう思う。

 山口百恵は、結婚&引退と同時に自伝本『蒼い時』を発表し、大ベストセラーを記録した。そこには赤裸々に出生の秘密が記されていた。そう、彼女が何度も主演してきた大映ドラマ、『赤』シリーズのような“私生児”の記憶が!

 『百恵の唇 愛獣』はそんな流れの中、絶妙なタイミングで作られたロマンポルノだ。80年11月19日、三浦友和と結婚式をあげ、芸能活動を引退した彼女へのご祝儀(!)として、12月26日に封切られたのがこの『百恵の唇 愛獣』なのだ(しかも百恵最後の主演映画『古都』が公開されている真っ只中)。なんという大胆な手口。なんという野蛮な時代よ。

 主演はソックリさんゆえ“ポルノ界の百恵”と呼ばれた日向明子。セックスを武器にスキャンダル情報を手に入れ、人気タレントを破滅に導くトリックガールなる役柄。結婚&引退間近のスター(泉じゅん)の過去を探り、そのマネージャー(小林稔侍)と一戦二戦交えることに。

 おっと、ここで百恵の名曲が!「ちょっと待ってェ、プレイバックっ、プレイバックっ」

 てなわけで、「NHK特集 山口百恵 激写/篠山紀信」(79年放映)に挿入された、野坂昭如のこんなコメントを紹介しよう。

 「スターとかヒットメロディーというのは、将来に向けてのタイムマシンみたいな役割を担っている。僕自身この時代を振り返るとき、山口百恵というスターの存在とかこつけて振り返るであろう」

 いまや“夢先案内人”山口百恵は、完璧な「過去」=百恵伝説を手に入れている。彼女にとってはこの大胆なロマンポルノも、単なる可愛い“イミテイション・ゴールド”にすぎない。

(月刊ビデオボーイ掲載)
●監督:加藤彰●出演:日向明子、泉じゅん、村川めぐみ、早川由美、他●1980年●日本