読む映画リバイバル『SR サイタマノラッパー』

世界的なラッパーを夢見るニート、空回りの末に見つけた自分だけのライム

(2010年6月1日号より)

 製作費はまったくもって低予算だが、6月末の公開映画のなかで、ファンの期待値がめちゃくちゃ上がっている新作がある。タイトルは『SR サイタマノラッパー2〜女子ラッパー☆傷だらけのライム〜』。理由は記すまでもないだろう。その前作にあたる『SR サイタマノラッパー』が、あまりに素晴らしい青春ヒップホップ映画だったからにほかならない。

 レコード屋もライヴハウスもない埼玉とおぼしき田舎町。ヒップホップグループ“SHO-GUNG”は、そこで結成された。メンバーのひとり、IKKUはいつか世界的なラッパーになりたいと思っている夢見人で、仕事もなく毎日ぶらぶらしている実家住まいのニート。時々「世界に向けてソウル送ってんだよ、オレらは!」と吠えるが、どう贔屓目に見ても空振り空回りの日々。
「今度のライヴの方向性、西海岸系、東海岸系、どっちで行く?」
「海、ないっすけど、埼玉」
 仲間と交わす会話も、トンチンカンなこと夥しい。

 このダメダメな主人公IKKUを演じた駒木根隆介は、れっきとした役者である。本職のラッパーではない。多くの人は初めて見る顔だろう。知らなくて当然。監督の入江悠のことだって。作品に関わってる人のなかで一番有名なのは、みひろだ。IKKUの高校時代の同級生役。東京でAV女優として活躍後、地元へと舞い戻ってきて、「変わってねえな、お前」だの「宇宙人かよ、お前」だの、元同級生をクサしまくる。

 これはそんなダメ男がのたうち回った末に、自分だけの言葉(ライム)を掴むまでの物語。だから最後、主人公が発するラップ、リリックは、胸にくる。めちゃくちゃ胸にくる。しかもそれを見守るカメラは長回しで、その場をずーっと冷徹に凝視し続ける。タイトルで「ちょっとイキがってる」ように感じるかもしれないが、どんなにダサくても、どんなにカッコ悪くても、どんなにドン詰まっても「意気を捨てない」男の映画なのだ。本作をたっぷり堪能して、続編にも期待すること。それは何と楽しい“流れ”であろうか。

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埼玉県北部の田舎町を舞台に、不器用にラッパーを目指す青年たちを描いたインディーズ映画。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭グランプリ受賞、また、TBSラジオ「ライムスター宇多丸のシネマランキン2009」で1位に輝き、フォロワーを増し、口コミでロングランした。監督の入江悠は本作で、’09年度の日本映画監督協会新人賞を受賞。

[週刊SPA!掲載]
●監督:入江悠●出演:駒木根隆介、みひろ、水澤伸吾、他●2008年●日本