読む映画リバイバル『血を吸うカメラ』

“覗き魔”は主人公ではなく、我々だ

(2010年4月13日号より)

 タイトルから、一体どんな映画を想像するだろうか。『血を吸うカメラ』である。かなりB級な、安いムードを醸し出しちゃっているが、当然これは邦題で、原題は『PEEPING TOM』という。ピーピング・トム。つまり、覗き魔、窃視症。が、こっちはこっちでどうも内容と合致していない気もして、筆者は邦題のほうが好きだ。

 本作は’99年度の英国映画協会ベスト100(=78位)、さらに’07年、米誌「TIME」が発表したホラー映画の歴代ベスト25(=17位)に入っているカルト・クラシック。長らく廃盤で、DVDはプレミア価格で取引きされていたが、このたびデジタルリマスターで再発された。

 ’60年公開の英国映画。何がカルトって、その主人公の設定……というか性癖。撮影所のカメラマンの助手をやっているのだが、実は淫楽殺人者で、しかも手の込んだ方法で彼は、独自の快楽に辿りつくのである。すなわち、16ミリカメラの三脚のひとつに長い刃を仕込み、毎回、狙った獲物=女性のノドに刃の先端を突き立てて、恐怖におののく断末魔の表情を撮影しながら殺害していくのだ。おまけにカメラの前方には鏡が取り付けてあり、「犠牲者が自分の死の瞬間を目撃する」ような仕掛けになっていて、そこに映りこむ顔、グニャリと歪んだ顔が最高に怖い。

 そうやって手に入れた“素材”を主人公は、自宅の映写室でスクリーンに投影し、ひとり愉しんでいるわけだが、映画自体は猟奇的ではなく、どこか格調を帯びているのが本作の凄さ。それは監督が名匠マイケル・パウエルだからだろう。

 『天国への階段』『赤い靴』(エメリック・プレスバーガーとの共作)などで知られる“名作の人”だが、『血を吸うカメラ』は単独で、自分のダークサイドを正直に出しつつ、十八番の夢魔的世界をいっそう追求した作品なのだ。映画を観ている我々もまた“覗き魔”であることを示唆した点では、原題もありだが、やはり、この異様に耽美なテイストは『血を吸うカメラ』の響きが相応しい。素晴らしい邦題だと讚えたい。

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幼年期のトラウマが原因で、次々と犠牲者を増やしていく青年マーク・ルイスの悲劇。公開時の批評は散々たるもので、監督のマイケル・パウエルは本作でそのキャリアを一気に地に落とした。が、それから20年後、名画発掘のコリンス・フィルムが動き、マーティン・スコセッシ監督が尽力。ニューヨークでリバイバルされ、再評価されるようになった。

[週刊SPA!掲載]
●監督:マイケル・パウエル●出演:カール=ハインツ・ベーム、他●1960年●イギリス