読む映画リバイバル『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』

ポール・トーマス・アンダーソン監督が原点回帰。救いようのない悲劇が胸を打つ

(2008年8月26日号より)

 映画も、たまには噛みごたえのあるものを観なきゃいかんと思う。柔らかいものばかり食べてると、人間、ヤワになってしまうから。

 そこで『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』である。ひとりの鉱山労働者が、石油採掘によって富と権力を手にしていく大河ドラマ。ちょっと夏休みの課題図書的な匂いがするが、心配ご無用。意訳すれば「おんどりゃ、血ィ見るど〜」な男の活劇。主人公の石油バカと、若き牧師とのヘビー級の対決がめっぽう面白い!

 かたや掘る男(本作でアカデミー賞主演男優賞に輝いたダニエル・デイ=ルイス)。かたや祈る男(『リトル・ミス・サンシャイン』の長男役で好演したポール・ダノ)。両者は別世界の住人のようで、どこか似通っている。すなわち、足もとを突き抜け「天啓のごとく空から降り注ぐモノ」を望んでいるところが。しかし、掘れば掘るほど、祈れば祈るほど、彼らの人生には“穴”が穿たれ、福音から遠ざかり、ドロドロとした血がマグマのごとく噴き出す。

 舞台設定こそ20世紀初頭のカリフォルニアだが、これは現在、21世紀まで続くアメリカン・ドリーム、「石油と宗教と金」をめぐる“黒い哄笑”に満ちた、一大悲喜劇なのである。

 初めは、躊躇するかもしれないが、いざ読み始めるとグイグイ引き込まれる古典的名作のよう。天才ポール・トーマス・アンダーソン監督による5年ぶりの新作だけに、本作は噛みごたえ十分。しかも映画本来の快感であるモーションピクチャーの醍醐味もたっぷりと。どの画面にも宿る気迫に、心を持っていかれること間違いなしだ。

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『マグノリア』のポール・トーマス・アンダーソン監督が、骨太で風格ある“原アメリカ映画”に回帰。ラスト、亡き師匠への献辞「ロバート・アルトマンに捧ぐ」と出るが、得意な群像劇ではなく、今回は叙事詩的アプローチで勝負。レディオヘッドのギタリスト、ジョニー・グリーンウッドの野心的な音響設計も魅力的。

[週刊SPA!掲載]
●監督:ポール・トーマス・アンダーソン●出演:ダニエル・デイ=ルイス、ポール・ダノ、他●2007年●アメリカ