読む映画リバイバル『海街diary』〈四姉妹ものの系譜〉

是枝作品と向田テイスト

(2015年6月上旬号より)

  日本映画には昔から、“姉妹もの”というジャンルがあって、なかでも四姉妹ものは、最も華やかでポピュラーだ。キャラの違う4通りの女性の生き方を描け、その時代を代表する女優たちが並び立つ、スター映画にもなっている。

 「細雪」など3度も映画化されていて、50年版で花井蘭子、山根寿子、高峰秀子に囲まれて次女役だった轟夕起子が59年版では、京マチ子、山本富士子、叶順子の上に配され、長女役になるなど、時々の女優史を映しだす鏡みたいである。

 市川崑が監督した83年版「細雪」で三女役だった吉永小百合は日活時代、「若草物語」(64)や「四つの恋の物語」(65)でも“三女”を務めたこと。あるいは千葉泰樹監督の「沈丁花」(66)で、京マチ子、司葉子、団令子、星由里子が「細雪」さながらに(演技とともに)華麗に和服美を競い合ったこと。はたまた、大林宣彦監督の「姉妹坂」(85)は血縁のない四姉妹ものとして、とびっきりのカルト作に仕上がっていたことだったり、“ポッキー”のCMのスピンオフで「四姉妹物語」(95)なんて映画もあったなあ……と話題は尽きず、この一大ジャンルを研究したら、さぞ楽しかろうと思う。

 そこにまた、新たな作品が加わった。是枝裕和監督の「海街diary」である。長女役から順に、綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず。舞台が鎌倉で、時の移ろいと人間模様を繊細に綴る――と来たら小津安二郎の世界をすぐに想起するだろう。実際、是枝監督もそういう発言をしている。が、本作には隠し味がある。

 いや、ちっとも隠してなんかはいなかった。これは“四姉妹もの”の変形で、父と母に捨てられた三姉妹と、父の遺した母違いの妹の物語になっている。つまり父親の不倫を契機に、四姉妹の人間関係が炙りだされてゆく向田邦子の『阿修羅のごとく』(79~80)のライン。ハードさは控えているが、そもそも吉田秋生の原作漫画からして向田テイストが濃厚なのだった。

 本作には、テレビドラマ版で四女役だった風吹ジュンがキーパーソンとして登場し、森田芳光監督の映画版(03年)で長女役だった大竹しのぶが母親役に。是枝監督は、「最初は連ドラにしたいと思った」とも語っており、実現すれば面白かったのだが、これはこれで向田テイストが光っていた「歩いても 歩いても」(08)の四姉妹篇って趣で、同様に、傑作となった。

 向田脚本といえば、食事のシーン。原作漫画以上に、食べ物が有機的にストーリーを動かしていく。それぞれの品に人物のキャラが乗っかっているのだ。注目すべきは姉妹たちは、4人でいるときはどこか自分を押し殺しており、誰かと二人っきりになると思わず本音がこぼれるのである。人間(関係)をぬか床で寝かせ、発酵させていくような作劇の歴史劇だ。

 なお、三女役で好演している夏帆はかつて、テレビドラマ『赤川次郎ミステリー 4姉妹探偵団』(08)に主演した。高校2年生の末っ子役だった。綾瀬はるかは7人家族ものの『あいくるしい』(05)で長女役に。長澤まさみは、次女(黒木瞳)の娘役で森田版「阿修羅のごとく」に出ていたりと、こちらも歴史の推移を感じさせるが、それはまた別の話か。

[キネマ旬報掲載]
●監督:是枝裕和●出演:綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず、他●2015年●日本