読む映画リバイバル『つぐない』

思春期ならではの潔癖さ、繊細さ、嫉妬と恋心。あるカップルの人生を狂わすのは一人の少女

(2008年10月7日号より)

 何事もツカミは大事だが、映画もまたそう。本作のオープニングを観よ。いや、聴け。開幕と同時に「タタッタタタタッ」とタイプライターを打つ音が聞こえてくる。机の前にいるのは少女ブライオニー。自作の戯曲を書き終え、原稿を母に見せようと部屋の中を急ぐ彼女にかぶさるのは、「タタッタタタタッ」というタイプ音をアレンジした技巧的なサウンド……あっという間に物語の中に引き込まれる!

 ブッカー賞作家で、現代英国文学を代表するイアン・マキューアンの「贖罪」を映画化したジョー・ライト監督。前作『プライドと偏見』でも有名小説の演出に挑み、成功を収めていたが、本作ではさらに情感を湛え、技巧的な冴えを見せている。

 物語の中心となるのは、ブライオニーの姉と使用人との秘密の恋。演じるキーラ・ナイトレイとジェームズ・マカヴォイもいいが、2人を引き裂くある行為をしてしまう少女時代のブライオニー役、アカデミー賞で助演女優賞にノミネートされたシアーシャ・ローナンの思春期ならではの潔癖さ、繊細さ、嫉妬と恋心が入り交じったキャラクターが印象的。

 人生をすっかり狂わされた一組のカップルを、映画は3つの時代——13歳、18歳、77歳のブライオニーの目線を通して綴っていき、タイトルの“つぐない”の意味を観る者に問いかける。途中、5分半にも渡る長回し(ダンケルク海岸でのシーン!)もあるが、数々の技巧は全てそのテーマに迫るため。観終わると、ツカミの中にすでにヒントが隠されていたことを知り、もう一度最初から観たくなるはずである。

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『プライドと偏見』(2005)の俊英監督ジョー・ライトとそのスタッフ、主演キーラ・ナイトレイの“チーム”が贈る芳しき文芸ロマン。第80回アカデミー賞では作曲賞(ダリオ・マリアネッリ)を獲得し、助演女優賞候補となったシアーシャ・ローナンは、ピーター・ジャクソン監督の新作『The Lovely Bones(原題)』の主演に抜擢されている。

[週刊SPA!掲載]
●監督:ジョー・ライト●出演:キーラ・ナイトレイ、ジェームズ・マカヴォイ、他●2007年●イギリス