読む映画リバイバル『スペル』

サム・ライミが久々にやりたい放題!“怪婆”はコワいというより笑いを誘う

(2010年4月27日号より)

 のっけから言ってしまおう。最近、「笑える映画がないなぁ」とお嘆きの方、このサム・ライミ監督の『スペル』……オススメです!

 ここで「それってホラー映画じゃなかったっけ?」と訝しがる人にはこうフォローしておこう。もちろん、ジャンル的にはホラーなのだが、そんじょそこらのヌルい笑いを吹き飛ばすギャグが満載。巷のお化け屋敷が大丈夫なら十分耐性があり、一級のコメディとして楽しめますよ、と。

 粗筋を記すと、銀行で働くヒロインが不気味な老婆のローン延長を断ったことから呪いをかけられ、ドえらい目に遭うというもの。サム・ライミといえば『スパイダーマン』シリーズで知られるが、かつては『死霊のはらわた』シリーズでスプラッター・ホラー・コメディの世界を極めた男。本作では久々にやりたい邦題、遊びまくっている。史上最強の老婆を造形し、入れ歯&吐瀉物ネタ、目ン玉飛ばし、さらにあの手この手の“嫌がらせ”をヒロインに仕掛けていき、めちゃくちゃ笑わせる。

 しかも、映画的にもグっとくるショットを要所要所で見せるのがライミの流儀。一例を挙げれば、ヒロインが駐車場で車に乗ると、なぜか白いハンカチが揺れながら飛んでくる。彼女が目で追うや、フロントガラスに近づいてきて、いきなりぶつかり、大音響が「ドーン!」。そして、車の後方に動いたハンカチをカメラが引き続き捉えると、後部座席に黒い影が浮かび上がり、そこで老婆が「ドーン!」と登場。この呼吸がたまらなくいい。続いて車内で始まるのは壮絶だけど、おバカなアクションで、サービス精神満点である。

 ライミは『スパイダーマン』シリーズではヒロイン役に、キルスティン・ダンストという容姿的に少々微妙な女優を起用しているが、本作では『ビッグ・フィッシュ』の演技派アリソン・ローマンに白羽の矢を立てた。まあ、彼女も飛び抜けた美人ではないが、肉体の張り具合が素晴らしく、酷い目に遭えば遭うほどキルスティン嬢と同じく、何だか可愛く見えてくる。これも“ライミ・マジック”ってやつだろうか。

※ ※ ※ ※ ※

銀行の融資担当のクリスティンが老婆に呪いをかけられたことで体験する地獄の3日間を描く。原題は『DRUG ME TO HELL』。つまりは「私を地獄に連れてって」。たったひとつの選択が、その後の人生を狂わせてしまう不条理さは、サム・ライミ監督の作品の主要テーマでもある。劇場版とディレクターズ・カット版も収録。

[週刊SPA!掲載]
●監督:サム・ライミ●出演:アリソン・ローマン、ジャスティン・ロング、ローナ・レイヴァー、他●2009年●アメリカ