読む映画リバイバル『歩いても 歩いても』

生々しいほどリアルな是枝流“家族論”。身内ゆえに愛おしく、厄介な家族の肖像

(2009年2月3日号より)

 先の正月休みで、帰省された方も多いかと思う。久々の団欒風景にホっとする反面、血族だからこその人間関係の煩わしさを再確認。ふと「家族って一体何だろ?」なんて、考えてもしまうわけだが、そんな人はぜひ、この『歩いても 歩いても』を観てみるといいだろう。

 描かれるのは、成人し家庭を持った子供たちと老いた両親が織りなす、ある夏の1日だ。久しぶりに実家にやってきた長女と次男。実は15年前に不慮の事故で亡くなった長男の命日でもあって、映画には、それぞれの心のさざ波が見え隠れしてゆく。

 3世代、「原田芳雄&樹木希林」「高橋和也&YOU」「阿部寛&夏川結衣」の演じる夫婦模様が展開していくのだが、何気ない場面や会話に、クスっと、ドキっとさせられる。映画なんて所詮、他人事のはずなのに、次第に自画像に見えてくるから不思議だ。作りモノの家族の肖像が、巧みな演者たちによって、“身内”に感じられる瞬間が何度も訪れる。

 タイトルの『歩いても 歩いても』とは、’68年末に発表された、いしだあゆみの名曲「ブルー・ライト・ヨコハマ」の歌詞の一節。食事の場で、「お二人の想い出の曲とか、ないんですか?」と問われ、「あるわよ」と老母親は答える。家の奥から引っ張り出され、レコードに針が落とされると……この“想い出”は観てのお楽しみ。何とも夫への悪意に満ちており、ことほどさように家族とは、愛憎こもごもで成り立っているものなのだ。

 TVのホームドラマでいえば脚本家・向田邦子の会話のやりとり、映画ならば名匠・成瀬巳喜男の撮影方法にインスパイアされたという本作。是枝監督が母を亡くした個人的な体験からスタートした企画だけに、その“家族論”は生々しく、リアリティが違う。観れば、家族を綴った世界的な
傑作、小津安二郎監督の『東京物語』の中の名台詞を思いだすだろう。すなわち「親孝行、したいときには親はなし。さればとて、墓に布団は着せられず」……そうか。この映画はむしろ、年末年始に帰省できなかった人が観るべきなのかもしれない。

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’08年サン・セバスチャン国際映画祭脚本家協会賞受賞! 夏の終わりの、ある一家の物語。特別な事件が起こるわけではないが、家族というものの愛しさ、厄介さ、残酷さなどがジワジワっと沁み出てくる。これまでド キュメンタリー・タッチの作劇や技法を得意としてきた是枝監督が、ほろ苦くも切ないホームドラマで新境地を開拓。

[週刊SPA!掲載]
●原作・監督・脚本・編集:是枝裕和●出演:原田芳雄、樹木希林、阿部寛、他●2008年●日本